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アンデルセン 童話に隠された秘話

200pxhcandersen NHKのBS歴史館「アンデルセン 童話に隠された秘話」録画してたのをやっと見ました。
面白かった! 構成が巧みすぎて騙されてる感覚が伴いましたが。

これは現地(デンマーク)が製作した番組を元にしてるのかも? 再現シーンが本格的すぎる。そうでなければ、NHKは資金が潤沢で羨ましいですな~と嫌味を言うべきでしょうか(私は民放ではできない教育的で堅苦しい番組が大好きです)。
童話作家のハンス・クリスチャン・アンデルセンは19世紀のデンマーク人で、現地語での発音はハンス・クレシテャン・アナスン、または名前をイニシャルにしてホー・セー・アナスンと呼ばれています。アンデルセンは非常にありふれた苗字なので、それだけでは通じないそうです。
作品は「裸の王様」「みにくいアヒルの子」「人魚姫」「親指姫」「マッチ売りの少女」「雪の女王」「赤い靴」など。昔から伝わる民話をアレンジした童話が多かった時代に、自分の体験や社会情勢を基にした創作童話を書いたのが特徴です。

私は童話や児童文学は苦手なので、アンデルセンといえば平野耕太「ヘルシング」のアンデルセン神父ばかりが思い浮かぶわけですが(キチガイの暗殺者です)。童話作家のアンデルセンもかなり病んでる感じ。
彼の人生や実体験がどのように作品に反映されているかを解説する番組でした。

アンデルセンは貧しい靴職人の子供として生まれ、14歳で家をでて首都に行き、歌手だの俳優だのを目指しますが、ことごとく挫折。しかし劇場やバレエ学校に出入りすることで芸術を振興する貴族と知り合う機会に恵まれ、パトロンを見つけます。無学を理由に採用されなかったこともあったので教育を受けて大学まで行き(中退したようですが)、24歳で旅行記を自費出版して評判になります。30歳で最初の小説を発表。同年に童話集も出版し、その後は創作童話を書き続けました。旅行が趣味でヨーロッパ各国を回り、当時の有名な作家などの多くと交流。生涯独身で70歳のとき肝臓癌で死亡。葬儀には王子や各国大使も参列しました。
作品は自分の体験や当時の社会情勢を参考に描いており、貧困層などの負け組の悲哀や苦しみを訴え、問題提起するものが多い。作家として認められてからは上流階級のパーティーに招待されるようになります(パトロンもいたし)。男性陣は酒盛りしているわけですが、アンデルセンはそこから離れて過ごしている女子供たちの中に入り、いろんな童話を披露して楽しませてくれる面白いオジサンという立ち位置だったようです。上流階級の中にいても本当に仲間入りできたわけではなく、やや差別的な扱いを受けました。ヨーロッパでは市民革命が起こり、身分の垣根が取り払われて民衆が自由に成り始めていた時期ですが、その初期だったので、古い価値観もまだまだ残っていました。
経歴だけ読むと普通っぽいな。

アンデルセンは一言でいうと現代人です。
昔の封建社会の人間には職業選択の自由等はなく、生まれ身分によって人生が決められていました。私たちから見ると虐げられた不幸な人たちに思えますが、可能性がゼロだと「もしかしたらこういう人生になったかもしれないのに」とか一切考えませんし、親や自分の周囲の人たちと同じような生き方をすると確定しているのは将来安泰という気分にも繋がるので、葛藤はあまりなかっただろうと言われています。以前どこかで江戸時代の解説でも同じことが書いてあったのを読んだ記憶があります。
しかし革命が起こり、自分たちも貴族のようになれる可能性が0%から1%に上がってしまったため、民衆は逆に不満を抱き、自分の生き方を自分で決めなければいけないことに悩み、理想と現実とのギャップに苦しむようになりました。知恵の実を与えられたアダムとイブって感じ? これは現代人特有の現象であり、人類がこんなことを考えるようになったのは100年ほど前からです。アンデルセンはまだ珍しかった時代に現代人の価値観をもっていた人物のようです。
アンデルセンはコンプレックスの塊で自分に自信がなく、でも内心自分は特別な存在だという巨大なエゴをもっていて自意識過剰。自己中心的で自分のことしか考えていません。これが現代人の共感を呼ぶんだと現地の解説者も日本の解説者も口を揃えていましたが、それは誰に対しても失礼すぎませんかねw

日本の解説者は3人で、それぞれ仏文学、北欧史、心理学の研究者のようでしたが、心理学的解説が興味深かったです。人魚姫はストーカーだと言い切ったしなw 話し慣れてないせいか加齢のせいか流暢でないのが惜しかった。
彼はアンデルセンについては明言しなかったけど、その人間性は現代人的な感性だけでなく、精神障害的な要素もあると考えているんじゃないでしょうか。私もそう思いましたし。

アンデルセンの父親は自分をまったく肯定できず不満たらたら。幼い息子に泣きながら愚痴るようなダメ親父です。父親が精神を病んで死ぬと母親は生活を支える苦労を紛らわすためにアルコールに依存。そしてすぐ自分よりかなり年下の若者と再婚し、居場所がなくなったアンデルセンは家を出ました。いわゆるアダルト・チルドレンですよね(親が大人として振舞わないため、子供が家庭内で大人の役目をして、精神が健全に成長しないこと)。

アンデルセンは極度の心配性で、非常時には建物の窓から脱出できるように必ずロープを持ち歩いていました。土葬のヨーロッパでは、仮死状態で埋葬されて棺の中で目を覚まして苦しんだという都市伝説が昔からあったらしいのですが、アンデルセンはそれも心配して、寝るときには枕元に「死んでません」と書いた紙を必ず置いていたそうです。これらは強迫神経症の症状だと思います。

アンデルセンはパトロンの貴族の息子を親友だと思っていて、日本で言うタメ口で話したかったのですが、それを手紙で伝えたら丁重に断られました。上流階級出身ではないからです。普通はこれであきらめるのにアンデルセンは何度もしつこく手紙を送り、そろそろ気が変わりましたかと死ぬまで手紙で言い続けたw ストーカー気質です。

好きな女性ができたときは相手に婚約者がいてもお構いなしに堂々と口説き、周囲の顰蹙を買います。ラブレターの代わりに自分の生い立ちから過去の恋愛歴まですべて述べた自伝を書いて送りつけ、自分の人生を相手に委ねます的な愛し方なので、本気なのはわかるけど重すぎて相手は引いてしまうし、失恋したときパトロン家の娘に慰められたらあっさりその娘を好きになるしで、どうも他人との距離感がおかしいですね。

旅先で某有名作家の家を訪ねたとき、その人は離婚協議中で疲れ切ってピリピリしており、家族全員から歓迎されなかったのに、アンデルセンはお構いなしで数週間も滞在して大満足で帰ってきました。この空気の読めなさは発達障害が疑われます。
どうやらこの手のエピソードに事欠かない人物だったようですね。

アンデルセンは自分の体験した恨みつらみを作品に組み込んでいます。これも現代の作家がやりそうな感覚です。
マッチ売りの少女のモデルはアンデルセンの母親です。貧しい家庭に生まれ、子供のときは物乞いしてこいと外にだされたんだけど、どうしてもできなくて橋の袂に座り込んでずっと泣いていたんだそうです。アンデルセンが大人になっても町にはそのような物乞いや物売りの子供がたくさんいました。彼らは死ぬ以外、幸せになる方法がないんだと訴えています。
みにくいアヒルの子が池でいろんな鳥に挨拶して回ったとき、「ずいぶん醜い子だね、でも別にどうでもいいよ、うちの家族と結婚さえしなければ」と言われます。上流社会で貴族とつきあってるうちに同様のことを言われたんでしょうね、アンデルセンは。パトロン家の娘を好きになったときも、それを知った親は慌てて娘を嫁に出してしまったし、息子もタメ口きく兄弟のような関係になる気はないと言ってるし、後見はするけど養子や婿にする気はないよってハッキリ示されてる。

人魚姫は前述のようにアンデルセンのストーカー気質や恋愛観が描かれています。心理学者の解説者が注目してたのは、足を得た人魚姫が外見は非常に美しいのだけど、歩行に激しい痛みを伴うという部分です。アンデルセンは拒食症や自傷行為をする人が理解できるんだろう、なんて解説してますね。なぜ痛くなければいけない設定にしたのかってことですが。私は単に、愛する人のためにこれだけのリスクを支払ってもかまわない、それだけの覚悟があると自己陶酔して、それをアピールしたいだけだと思いますけどね。自己愛に満ちた重たい人ですから。
王子が別の女性と結婚したとき、人魚姫の姉たちは、王子を殺せば人魚に戻って長い寿命を生きられると教えてくれます。これもねー。アンデルセンは失恋したとき、他人に渡すくらいならいっそ殺してしまおうかと考える人なんでしょうね。でも人魚姫は王子を殺さず自分が海の泡になることを選ぶ。アンデルセンも殺人犯ではないのでw同じ気持ちで頑張ったんだってことでしょう。

司会進行の室井滋が人魚姫のこのシーンを読んで理解できなかったと言ってたのが面白かったです。
夜中、人魚姫は眠っている王子のところに行き(奥さんも王子に腕枕されて一緒に寝てますよ)、王子の額にキスして最後のお別れをしたところ、王子は寝言で奥さんの名前を呼びました。人魚姫はナイフを投げ捨てて海に飛び込みます。
室井滋は、別の女の名前をきいてカッとなって、当然殺すのかと思ったらナイフを投げ捨てる展開で、理解できなくて何度もそこを読み返したそうですw 実際どんな描写かと思って青空文庫で読んでみましたが、「カッとなった」とは書いてないんですね。ナイフを持つ手が震えただけ。素直に解釈するなら愛する人を殺すことはできないという人魚姫の思いの深さを描いているんでしょうけど、悪く言うと殺す気概もないほどの負け犬だったってことかな。

ところで童話や児童文学が苦手な私ですが、人魚姫は面白かったです。主人公はまだ子供(最終的には16歳くらい?)なんですが、考え方や言動は大人なんです。
王子は障害のある(口のきけない)美しい娘を拾ってきて、常に横においてベタベタ触ってイチャイチャ可愛がるようになりました。奴隷女を侍らせる金持ちのロクデナシ坊ちゃんにしか見えません。人魚姫はひとりの女性ではなくペット扱いされています。てか情婦だよな。
ほかの作品でもそうみたいだけど、登場人物たちの考えや感情はドロドロとした醜く深刻な内容が多いです。子供向けに綺麗事だけを描こうという意思が感じられません。ただ、行間を読ませる文章なので、表面的には綺麗事だけを描いている作品だと見ることもできる。子供はそう感じるでしょう。大人が読むとそこに別の意味を見出すことができるようになっています。童話って全部そうなのかな? よく知らないんで。

ともかくアンデルセンに対する認識が改められる番組でした。好きになったw ほかの作品も読んでこようっと。

この番組はNHKオンデマンドで視聴できます(有料です、210円。2012年06月30日まで)。
https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2011028060SA000/index.html

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コメント

子供向けに救いのない話を描くっていうことに違和感があったが、
アンデルセンさんがこういう人だったからか・・・
マッチ売りの少女って、貧しい人は死ぬ以外に幸せになる方法がないと
訴えたかったのね・・・。
とすると、そんな物語を、清貧を表していると受け取ってる日本人は
変態ではなかろうか。
というか、アンデルセン童話自体、
学校とかで子供にお勧めしているのが不思議。

人魚姫の解釈はよくわからなかった。
歩くことに痛みがあるってそんなに違和感ある設定???

童話の人魚姫の人生ってこんな感じだったんですか。
こんなに詳しく書いてある記事(番組?)初めて読みました。
でも、内容はアンデルセンのことを批判するだけの番組だったように思います。
普通なら批判する人とフォローする人の両者がいないと番組にならないと思うんですが(笑)
そうでないと、その考え(この場合だと、心理家たちの考えるアンデルセンの思想)だけが正しいと思われてしまいますよね?(笑)
理由があって発言はされているようですが、ただ、フォローするような考え方もあるのにそれを発言しないのは変だなと思いました(想像できないだけなのかもしれませんが)
あえてフォローすると、アンデルセンが空気読めないとか書いてありますけど、世の中、あえてそのように振る舞い、場を和ませる場合もあります。(わかりやすく例えると、お笑いのボケ担当みたいな感じで)
離婚協議してる家族の家なら、確かに殺伐とした雰囲気ですよね。お節介をやいて、少しでも和ませようとしてた何かしていた可能性もあります。(なにかキッカケを作れば考えが変り、離婚するのをやめるかもしれないとか思っていたのかもしれませんし(笑)彼は作家ですからストーリーを考えたかもしれません。)
心優しいアンデルセンなら、その考えも有りえます。
やり方が下手なのかもしれませんけども(笑)
まぁ、本人に聞けないので実際のところはわかりませんが(笑)
でも、迷惑がられていても、嫌われないということは、相手にもその想いは伝わっているはずです(普通なら嫌いますよね)
だとしたら、上手にできないというのが発達障害なんでしょうか??なんだか違うと思います。
放っとけばいいのに放っておかない、ただのお節介焼きのように感じました。笑
あ、でも、相手との距離感は確かに変かもですね。死ぬってね(笑)
まぁ、仲良くなりたくて友人と思っていた人にすがっていただけのようにも感じましたが。(仲間になりたいとか思ってるから)
あと、好きな人も、自分のことを理解してほしいと思うと同時に相手にも、きっとそのようにしてほしいと思ったんでしょう。かなりの押し売り&一方通行だったようで、引かれていただけだと思いますが(笑)
でも、そういうのが発達障害なんでしょうか??色々下手なだけな気もします。(障害はなくて、不器用な人世の中沢山いますよ)
まぁ、障害者でも才能があれば世界に名を残せるのかととらえることもできますから?発達障害者だったということにしてもいいのかもしれませんが(笑)

あと、人魚姫。そんなに変な話ですかね?自己愛なの?
心優しい人魚が愛していた人に少しでも近づきたくて頑張ったけど、壁が大きすぎて乗り越えることができなかった可哀想な話だけど、(→削除されてる本も多いけど)最後は天に召されて本当の幸せを手に入れる話ですよね。
話の流れは起承転結ありますし(しかも、どこか予想外の話になるような面白い作品)、わかりやすくて、現実感がないのに現実的で、しかも美しい文体で素敵な話だと個人的には思っていました。
なので、人魚姫ストーカーといわれてショックを受けました(笑)

まぁ、現実感がない空想の世界が好きな人と、とことん現実的な話が好きな人と、話なんて読まない人(現実逃避しない人ともいえますね!笑)

↑の続きです。うっかり、投稿押してしまいました(笑)

とりあえず、どちらにも好まれるような感じの作品だなと思っていました。
話に興味ない人にも、読んでもらえたらなにか心に残る作品だと思いますし。
彼が“作家”だということが、より鮮明にわかる作品の一つだと思います。

あと、内容が重い作品も多いですが、子供たちや大人の心に残る内容ですよね。
『こんな人もいるのか』とか『こんな考え方もあるのか』とか。かとおもえば、絶対にありえない笑い話なども作ってみたり。
色々な苦労や経験があり、なおかつ空想の世界に浸ることができて、新しい何かを発見できたりする話を作れるアンデルセンは、やはり『童話の王様』なんだとな思っています。
童話は大人が子供に読んであげる本ですよね。
読んでる人にも退屈させないアンデルセンは凄いと思います。

美化しすぎましたでしょうか?笑

とりあえず、番組の内容だけが正しいとは思えなかったので、コメントさせていただきました。

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