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蛇にピアス

Snakespierce02 Snakespierce03 N0012307_l 映画「蛇にピアス」見ました。オチまでネタバレします。

原作は未読です。芥川賞だっけ? 映画は蜷川監督。

主人公ルイは渋谷をフラフラしてる19歳のギャルで、振袖を着るタイプのパーティーコンパニオンの仕事をしています。クラブで顔中にピアスつけたパンクスの男の子アマと出会い、同棲し、彼に刺激を受けて刺青や身体改造に興味を持ち始め、その手の専門ショップを連れて行ってもらって実際に舌ピアスを入れ、背中にファッション性の低い和彫りの刺青を入れたりするようになります。彼女は痛みを感じているときしか生きている実感が得られないマゾヒストなのです。アマとラブラブする一方、アマの紹介で知り合ったサディストの彫師シバさんとも関係をもち、見た感じはまあまあ幸せなんですが、なんだか常に虚無感・不安感があってアルコールに溺れる毎日。
街でヤクザに絡まれたルイを助けようとしてアマが過剰な暴力をふるい、結果的に殺してしまう事件が起こり、忘れた頃に少しずつ捜査の手が伸びてきました。そんなときアマが失踪。錯乱したルイはシバさんを頼って協力してもらい、捜索願を出しますが、拷問された死体で発見されます。
葬儀を終えるとルイはシバさんと同棲することになりました。警察から捜査の途中経過を教えてもらうと、どうやらアマを殺したのはヤクザじゃなくてシバさんっぽい? そう気づいても、アマを捜査の手から庇ったときと同じようにシバさんのことも守ろうとするルイ。だって自分にはほかにだれもいないから……。というストーリーでした。

刺青とかピアスとか身体改造とか刺激的なモチーフを扱ってますが、根底に流れるテーマはごくごく平凡な、青春のもがき苦しみ。珍しくもない、理解できるありふれた感情しか出てこなかったと思う。その点では期待外れですね。
リストカットする女子高生が主人公でも同じテーマを描けるのに小道具を過激にしたところスタイリッシュな作品に仕上がりました、みたいな。

ゲーム「亜鉛の匣舟」の佐伯さんを思い出した。彼が長期滞在中の屋敷で働く14歳のメイドは利発で明るい性格の良い子なんですが、佐伯のことを優しくて親切で紳士的な人だと感じてるんです。でも殺人事件が起きて彼女が死体の第一発見者となり、人間の闇みたいなものを生まれて初めて実感。すると、佐伯のことが急に怖くなって目の奥を見ることができなくなります。佐伯の態度はなにも変わってないし犯人だと疑ってるわけでもない(事実、今回は犯人ではない)んだけど、なんだか怖い。彼が怖いんじゃなくて、彼に会うと自分の中にある怖いものを目の前に突きつけられたような気分になる。
佐伯みたいな作品ってたくさんあるけど、この映画もその一種だと思いました。自分の中に闇が存在しない人が見てもなにも感じるところがないんじゃないでしょうか。

主人公の抱いている空虚な感じや苦しみは、だれもが多かれ少なかれ思春期に経験したことだと思う。自分を真に理解してくれる人がいない。自分はなにも持ってない。誇れるようなスキルもキャリアもない。
この感情が中年になっても続いていると深刻な問題だけど、この年代なら別に、大騒ぎすることないんじゃない?

ただルイは自我が異常に希薄です。
頭は悪くないし美人だし、おそらく実家も普通の中流家庭で経済的に困窮しているわけでもなさそうです。なにか将来の夢をもって努力すればそれなりに達成できる人間だと思います。でも自分が何をしたいのか、何が欲しいのか、何をすれば自分は幸せになれるのかが、さっぱりわかんない。欲求が薄いというか、自分自身が掴めない。そのせいで周囲にひたすら流されていくんです。

これは凄く現代の若者っぽいですよね。世界は過酷なもので自分がなにをしても絶対に変えられないし、未来に希望も持てない。その現実を心底理解しているから怒りも湧いてこない。濁流の中の小石のようにただ自分の形を維持するだけで精一杯なんです。自分なりに状況を良くしようと努力するんだけど、それは社会を変革するとかいった外向きの考えではなくて、自分の中だけでなんとか解決しようとします(ルイは酒や身体改造に走った)。
世界と自分が繋がってる感じがしないというか。この現実感のなさは凄くよく描かれていたんじゃないでしょうか。

ところで私はSです。他人が痛い思いしてるのを見ると面白くて顔がニヤけて止まりません。でも自分が痛いのは大嫌いです。Mの視点で描かれて痛いのを喜んでる作品は正直ツライ。でもセックスシーンになると何故か主人公ではなく男の視点に近くなるので大丈夫でした。むしろ燃えました。監督はMじゃないと思います。
そういうわけで私はシバさんに感情移入。主人公はどうでもいい、彼は幸せになるの? 彼はこれで幸せなの? と、そればかりが心配でw ルイはアマが死んでから首を絞められても反応しなくなったので、シバさん勃たなくなったんですよ。そのままずっとセックスレスで暮らしてるんですか? そんなルイには価値がないのでは?
いずれ彼女もシバさんに殺される可能性も高いよな~と思うラストでした。いや興味が失せた相手なんてわざわざ殺してあげたりしないか。シバさんにとって殺すのは愛だからね。

シバさんがアマを殺した動機はよく理解できず。
以前から彼のことを凄く可愛がってたのは間違いなさそう。好きだからセックスしたくなって、でも相手は自分と違ってバイじゃないんで拉致監禁したら、興奮しすぎて殺しちゃった気配も強いです。
シバさんとアマがふたりともバイで以前から合意の上の関係をもっていた可能性もあるんだろうけど、アマがルイに隠し事をする(できる)とはあまり思えません。
シバさんがルイを自分のものにするためにアマを殺したというのが一番ストレートな解釈ですよね。それにしては殺すとき楽しみすぎだと思うけど。うーん。この説は私の好みじゃないし、なによりつまんないっす。
いずれにせよ友達に責められる夢を見るくらいだから罪悪感は感じてそうですよね。心配よー。

主人公は成長せず、展望が開けないまま終わる物語です(映画では。原作は違うかも)。変えられない自分に絶望して終わり。純文学なら仕方ないか。弱い人間だ。
思春期の若者が共感すべき物語なのに年齢制限がついているという、間抜けな作品。映像や雰囲気は妖しく美しいほうだと思うので、耽美趣味の人にはまあまあお勧めできます。

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コメント

ここまで内容を掴み、要約した上で考察を交え評価できる。
あなたはとても頭の良い人だと思いました。
素晴らしい、尊敬します。

あなたわすごいです。

ルイの内面に対する分析を読んで、とても刺さりました。
自分も欲求が薄い人間かもです・・・。

自分で自分をSと言ってしまうところが、残念。

現代の若者を描いているという点には共感できましたが簡単にまとめすぎていて、
まだ色々なことを感じられる部分があるのではないかと思います。

2・3記事読んだだけですが、ファンになりました!

映画のテーマや、演出の手法などから作品を見ていて、
読み応えがあります!!!

自分をSなどとおっしゃったり、他の記事では、悪役にばかり感受移入するなどと書いていらっしゃいますが、
言っていることは常識的というか良心的というか(笑)
読んでいて安心感があります。

作品に高いレベルを求めているところが素敵だと思いました!

大学での専攻は何なんでしょう?
(心理学系だからこういう考察なのかな?
いや、芸術系?
そんなの関係なく、理系?)
・・・なんて思ってしまいました。
ずうずうしいですが、
簡単なプロフィール作っていただけませんか?

記事のリクエストなんかも受け付けてもらえるのでしょうか?笑

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